出資持分の相続対策について、教えてください。

10年前、医療法人を設立しました。
 医療法人の理事長を勤める先輩医師から「とにかく理事長としての威光を築き、できるだけ影響力を長く持ち続けることが大事。出資持分も目の黒いうちは誰にも文句を言わせてはいけない。」とアドバイスを受けました。
 すっかりその気になり、顧問税理士にもその意気込みを話したところ、渋い顔をされ、「医大に通う息子さんが後継者になる可能性は考えていないのですか?今から対策を考えておかないと息子さんが相続税で苦しむことになるかもしれませんよ。」と言われました。

<失敗のポイント>
 短期的なガバナンスの問題にとらわれ中長期的な相続対策まで考えが及びませんでした。

<正しい対応>
 医療法人の所得が毎年出るような状況であれば、出資持分の評価も上がるので、引退する時に慌てて検討し始めるようなことでは十分な相続対策をとれないかもしれません。
 そこで、以下のような方策も考えられます。
(1) 医療法人設立後でも早めの移転を検討する。
(2) 役員退職金などの大型経費の支出があるときに出資持分の移転を行う。

<税法等の解説>
出資持分の相続対策
 遺産分割のトラブルや重い相続税の負担が、病医院の存続に影響することもあるので、事前に相続税のシミュレーションを行い、納税資金の確保なども含めた対策を講じておくことが必要です。

○ 相続事業承継対策
出資持分のある医療法人の理事長にとって、出資持分の後継者への承継は重要課題とい
えます。出資持分の評価は一般的に高額となるケースが多く、後継者含め相続人に対しての相続税の影響が大きくなるためです。
 したがって、後継者含め相続人の負担する相続税がどれくらいの金額になるのかを事前に把握し、相続税対策を長期的に検討することが重要です。

○ 理事長の相続における事前留意点
理事長個人の相続財産・債務の全体像を把握した上で、相続税納税資金の有無やその必
要額を確認し、後継者含め相続人へどのように財産を分割するのかを検討します。
 また、一例として以下のような事前確認が考えられます。

(1) 医業用不動産(土地・建物)の所有者は理事長か?
 相続財産は相続税評価額によって評価しますが、一定の要件を満たした土地である場合、「小規模宅地」についての相続税の課税価格の計算の特例」という制度により、最高80%の評価減を適用できます。

(2) 理事長からの医療法人への貸付金はあるか?
 理事長からの医療法人への貸付金(医療法人にとっては借入金)は理事長個人への相続税財産となります。

(3) 理事長の出資持分の評価はどれくらいあるか?
 出資持分は次期後継者が承継していくと考えられますので、理事長個人の相続財産のうち出資持分がどれくらいの評価額になるかを把握することは重要です。

(4) 理事長個人の財産のうち換金可能財産はどれくらいあるのか?
 相続税納税資金の確保、後継者以外の相続人に対する分割財産を確保できるのかを確認します。

○ 出資持分を事前に評価する重要性
医療法人の理事長の相続を考えた場合、医療法人の出資持分は理事長の相続税財産のう
ち最も重要な財産の一つです。
 その評価は相続時点での評価額となりますが、医療法人は配当金を出すことが法律上禁止されているため、長期間利益が出ている法人は法人内部に利益が留保し、出資持分の評価が設立当初に出資した金額を大きく上回ることが少なくありません。
 そして、出資持分の評価が高額になり、後継者に医業承継財産が集中した場合には、出資持分は換金性がないため、次期後継者となる相続人の納税資金が不足するケースも考えられます。
 したがって、次期後継者のスムーズな事業承継を行うためには、まずは現状における医療法人の出資持分の評価をして、次期後継者に与える相続税の負担がどれだけの金額になるのかをシミュレーションすることが重要となってきます。

○ 出資持分の相続税対策
出資持分が高額になっている場合、後継者には多額の納税が発生することが想定されま
す。したがって、前もって出資持分の評価の引き下げを図り、持分の一部を後継者に移転させることにより相続財産自体を理事長から切り離すことや、どのようにして納税資金を確保できるのかを検討することが重要となってきます。

(1) 出資持分の評価の引き下げの一例
 代表的な方法としては、理事長の勇退による退職金の支払が考えられます。
 退職金を支払った時等、多額の経費が発生する時には法人の純資産が減少するため持分の評価は下がります。そのタイミングで出資持分を後継者に移転するとよいでしょう。なお、移転の方法としては、譲渡と贈与の2つがあります。

(2) 納税資金の確保の一例
 すでに後継者が医療法事の理事長である場合には、不相当に高額な役員報酬とならない範囲で、ある程度将来の納税資金を意識した役員報酬を設定しましょう。
 その他、生命保険を活用して、理事長に相続が発生した時に、医療法人が遺族(後継者)に支給する死亡退職金の納税資金とする方法なども考えられます。

内部利益を備蓄すると出資持分の評価が高くなる。
設立当初の出資金:900万円
その他:100万円

出資金:1000万円
理事長:900万円
他:100万円
↓税引後利益:800万円
理事長:1620万円
他:180万円
↓税引後利益:800万円
理事長:2340万円
他:260万円

出資金評価額:2600万円

※ 医療法54条により配当は禁止されている。

<税理士からのPOINT!>
 相続対策では、相続人官でのトラブルが生じやすくなりますから、あらかじめ専門家に相談し、相続対策をしておくことがポイントです。